
「来週、本国からVPが来る。君、プレゼン資料をHigh-level(ハイレベル)な内容でまとめておいてくれ」
上司からそう言われた時、20代の頃の私は、文字通りフリーズしました。「ハイレベル……? つまり、もっと高度な専門用語を使い、誰もが驚くような深い分析データをこれでもかと詰め込んだ、重厚な資料を作ればいいのか?」
そう信じて疑わなかった私は、何十枚ものスライドを作り込み、細かい数字の根拠(バックデータ)を網羅した「超大作」を書き上げました。しかし、上司のフィードバックは冷酷なものでした。
「これじゃない。細かすぎて本質が見えないし、結局、私にどう動いてほしいのかが全くわからない。ハイレベルに、と言っただろう?」
今回は、かつての私のように「ハイレベル」の定義を間違え、暗闇を彷徨っている外資系若手社員のあなたへ。エグゼクティブが求めている正体と、彼らの信頼を一瞬で勝ち取るための「未来への数字」と「支援依頼」の極意を公開します。
1. 最大の誤解:「ハイレベル = 高度・詳細」ではない
まず、私たちが最初に捨てなければならない「思い込み」があります。それは、ハイレベルを直訳して「難易度が高い資料」だと思ってしまうことです。
実は、外資系ビジネスにおいてHigh-levelという言葉が使われるとき、それは「俯瞰的」「概念的」「要約された」という意味を指します。
「鳥の目」を持つということ
飛行機から地上を見下ろすシーンを想像してください。高度が上がる(High-levelになる)ほど、地上にある家の一軒一軒は見えなくなります。その代わりに、「街全体がどちらの方向に広がっているか」「どのインフラがボトルネックになっているか」という全体像が見えてくるはずです。
エグゼクティブが求めているのは、まさにこの「高度1万メートルからの景色」です。
2. エグゼクティブが資料に求めている「3つの問い」
本国のマネジメント層は、分刻みのスケジュールで意思決定を繰り返しています。彼らが資料を開いた瞬間に探しているのは、次の3点だけです。
- So What?(だから、何が言いたいのか?)
- Now What?(で、これからどうするのか?)
- What do you want from me?(私に何をしてほしいのか?)
これらに答えていない資料は、どんなにデータが綺麗でも「ハイレベル」とは呼ばれません。
3. 「過去の言い訳」より「未来の数字」を欲している
資料を作っていると、つい「なぜ先月は未達だったのか」といった過去の振り返り(Post-mortem)にページを割きすぎてしまいませんか?
もちろん、失敗からの学びは大切です。しかし、本国のエグゼクティブは「終わったことの解説」に時間を使うことを極端に嫌います。彼らが知りたいのは、「過去はわかった。で、これから何を、どの数字まで持っていくのか?(What’s the plan forward?)」という一点です。
精神論ではなく「数字」で語る
「次四半期は挽回できるよう最善を尽くします」といった精神論は、外資系では通用しません。ハイレベルな資料には、必ず未来の数字を入れましょう。
- NG: "We will try our best to recover sales."(売上回復に努めます)
- High-level: "By focusing on X-channel, we expect a $1M incremental revenue in Q4."(Xチャネルに集中することで、第4四半期に100万ドルの増収を見込みます)
振り返りは3割、未来の話を7割。 この配分が、ビジネスを前に進めるプロフェッショナルの基準です。
4. 【最重要】「Support Request」がない資料は価値ゼロ
エグゼクティブの時間はコストです。彼らは「助けるため(意思決定するため)」に会議に来ているのです。 資料の最後、あるいはプレゼンの冒頭で、必ず「Support Needed / Support Request(あなたに求める支援)」を明確にしましょう。
「Everything is fine(すべて順調です)」という報告だけでは、彼らは自分の存在意義を感じられません。むしろ、「ここを突破するために、あなたの力(権限)を貸してほしい」と言われる方を好みます。
具体的な支援依頼の例:
- Budget: 「この挽回プランを実行するために、追加で$50Kの予算を承認してほしい」
- Alignment: 「本国の開発優先順位を日本に振り向けるよう、ディレクター陣に働きかけてほしい」
5. 実践!ハイレベルな資料を構成する「黄金のフレームワーク」
私が10年の経験で辿り着いた、本国のボスを唸らせる構成術です。
- Executive Summary(1枚で完結)
- 現状サマリーと、この会議で決めてほしいこと(Key Ask)を冒頭で宣言。
- The Big Picture & Future Outlook
- 市場環境と、アクションによる「未来の予測数字」を提示。
- Critical Few(3つの重点項目)
- 意思決定に必要なトピックを「3つ」に絞る。
- Support Needed(支援依頼)
- 「具体的に何をしてほしいか」をダメ押しする。
- Appendix(付録)
- 細かいデータはすべてここへ。聞かれた時だけ出せば、あなたの評価は「High-levelな人」で固定されます。
6. 英語で表現する「未来」と「支援」のキーフレーズ
- 「過去の傾向はさておき、これからの計画は……」"Moving past the historical trends, our forward-looking strategy is..."
- 「このアクションにより、〇〇の成果を見込んでいます」"We project a 10% increase in conversion by implementing this plan."
- 「この目標を達成するために、あなたの支援が必要です」"To hit this target, we need your support in securing additional resources."
- 「具体的に、〇〇について承認をいただけますか?」"I'd like to seek your blessing on this proposal today."
7. 【キャリアの視点】これはあなたの「昇進試験」である
本国のボスは、あなたの実務スキルではなく、「マネジメントを動かす力」を見ています。適切な「未来の数字」を見せ、適切な「Support Request」ができるということは、あなたが「組織の動かし方を知っている」という証明になります。
「こいつは経営の視座を持ち、私を正しく使いこなしている」
そう思わせた瞬間、あなたは単なる「オペレーター」から「ビジネスパートナー」へと昇格します。本国エグゼクティブから会議、お客様への同行訪問は、まさにあなたのキャリアを左右する「動く人事評価」なのです。
結論:2026年、意思決定を促す人が生き残る
「ハイレベルな資料」とは、情報を削ぎ落とし、相手が「Yes」か「No」を言える状態にまでお膳立てされた資料のことです。
勇気を持って、過去の詳細は Appendix に捨ててください。そして、「未来の数字」と「支援の依頼」を堂々と伝えてください。その一言が、あなたのキャリアを劇的に変えるはずです。
次にするべきアクション: 今作成している資料の最後に、「Support Needed」というスライドを1枚追加してみてください。具体的であればあるほど、ボスはあなたを信頼します。
資料という「型」を作った後に試されるのは、やはり「本気の質疑応答」です。私が会議で撃沈(Kill)された状態から、どうやってマネジメントと対等に渡り合えるようになったのか。その泥臭い訓練の記録も、あわせて読んでみてください。
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